滝尻王子跡は、和歌山県田辺市中辺路町にある史跡である。
滝尻王子は、熊野古道の中辺路の起点で、熊野三山の結界(霊域の入口)とされている。
熊野九十九王子の中でも、五体王子の一つに数えられた王子跡で、国史跡となっている。
現在、十郷神社の境内になっている。
正治2年(1200年)、後鳥羽上皇が熊野参詣の途上、滝尻王子に立ち寄り、「山河水鳥」「旅宿埋火」と題して歌の会を催した。
その時参会した人たちの詠草が熊野懐紙で、後鳥羽上皇以下11名の分が現存している。
また、藤原定家の「御幸記」に、滝尻王子で「河辺落葉」「旅館風月」の歌題で開かれた歌会の様子が描かれている。
このように、熊野行幸の際に、王子社で一行は休憩をとり、歌会を催しながら旅を続けていた。
滝尻王子の裏山一帯には様々な神々が祀られている。
裏山を10分ほど登ると、巨岩の下をくぐれる「胎内くぐり」がある。その近くに「乳岩」がある。
奥州平泉の藤原秀衡夫妻が熊野詣での途中、夫人がこの地で産気づき、男の子を産んだ。
乳飲み子を連れて熊野詣でに行けないので、やむなく岩屋に乳児を預け、参拝を済ませて帰ってくると、乳児は狼に守られ、岩から滴る水を飲んで元気にしていたという伝説がある。
熊野の神々の霊力と慈悲を示す物語として、古来伝わっている。
十郷神社には、藤原秀衡奉納と伝えられている「黒漆小太刀」(国の重要文化財)がある。
JRきのくに線田辺駅からJRバスで滝尻バス停下車。(Y.N)