一の橋は、和歌山県高野山奥之院にある。
奥之院は高野山の信仰の中心であり、弘法大師空海が入定している御廟がある。
一の橋から御廟までの1.9㎞の参道の両側には、老杉がそびえ、20万基を超える各時代の供養塔が並んでいる。
奥之院は川と橋の三重構成となっている。
一番初めが澱河(おどがわ)を隔てて俗に「一の橋」と呼ばれている「大橋」または「大渡(おおわたり)橋」という。
つぎが古谷(こや)橋川とも金の河とも呼ばれる川にかかっている、俗に「中の橋」と呼ばれる「手水(ちょうず)橋」で、
一番奥には御廟川があって、「御廟橋」または「無明の橋」が架かっている。
「高野山秘記」には、澱河に「大渡龍穴(りゅうけつ)」があると記されている。
この龍穴は、水神である龍のいる穴で、日本の民俗信仰では、「穴」は他界、死の世界に通じると信じられており、
秘記には「大師の門(かど)送り」の話が掲載されている。
延喜21年(921)醍醐天皇に夢告があり、弘法大師空海に檜皮色の装束を捧げに来た観賢(かんげん)が、無事その役を果たして下向しようとすると、お伴の唐傘持ちを空海が一の橋まで送ってきた。
観賢が、なぜ身分の低い人に丁寧にされるのかと尋ねると、
空海は、「私はこの人が持っている仏性に対して礼拝したのである。今後どんな末世や後の世になっても、奥の院に参った人は必ずここまで見送りをする。」と答えたという。
橋の袂の和歌山県の世界遺産説明でも、「参詣人をここまで弘法大師空海が送り迎えをするという伝承があり、お参りをする人はここで礼拝をして渡ります。」と記されている。