海龍王寺は、奈良市にある真言律宗の寺院である。
境内からは、7世紀中頃と思われる瓦が出土しており、創建は白鳳期に遡る。
奈良時代に入ると、この地は藤原不比等の邸宅の一部となった。
不比等の死後は、娘の光明皇后が相続し皇后宮となり、寺はその隅にあったため、「正倉院文書」などに隅寺、隅院、角寺、角院などの名前で登場している。
天平17年(745年)、皇后宮は宮寺(後の法華寺)に改められた。この時代に、伽藍の整備が行われ、中金堂の両脇に東金堂と西金堂が向かい合って建てられた。
しかし平安時代には寺勢は衰微し、鎌倉時代に貞慶、叡尊によって修理がなされた。室町時代以降、戦乱等で打撃を受けたが、昭和28年(1953年)以降に復興された。
現在の建物は、本堂、西金堂、経蔵で、西金堂の中に五重小塔(国宝)が、安置されている。
五重小塔は、高さ4.01mの奈良時代の作品で、複雑かつ経費のかかる実物大の塔の代わりに建立されたと考えられている。
住持となった遣唐留学僧の玄昉が、東シナ海で暴風雨に遭いながら、海龍王経を唱えて帰国したことから、聖武天皇から海龍王寺の寺号と、寺門勅額(重要文化財)を賜ったと伝えられている。
玄昉は、般若心経の流布・講釈を熱心に行ったことから、写経が盛んとなり、「隅寺心経」と称する写経原本が残され、般若心経写経発祥の地といわれている。
JR奈良駅、近鉄奈良駅からバスで「法華寺北町」下車、徒歩1分。参拝者用の駐車場がある。(Y.N)