瀧口入道旧蹟 鶯の井戸は、和歌山県高野山大圓院にある。
平家の嫡男平重盛に仕えていた斎藤時頼という武者が、花見の宴席で建礼門院の雑仕女 横笛と恋に落ちる。
しかし、身分の違いから結ばれることはなかった。
時頼は、未練を断ち切るために出家し、瀧口入道を名乗り、女人禁制の高野山に移り住んで大圓院で修行を重ねた。
一方、横笛も出家し、奈良の法華寺で尼僧となっていたが、病となり高野山の麓の天野の里で亡くなった。
そのとき、横笛は鴬となって瀧口入道の居る大圓院に向かった。
瀧口入道が、梅の木に止まる鴬に気づいたところ、鴬は突然舞い上がり井戸に落ちたという。(「平家物語」巻第十)
大圓院の境内には、その井戸が残され、本尊の阿弥陀如来の胎内には、鴬の亡骸が納められているといわれる。→ 高野山女人伝承ゆかりの地
また高山樗牛は、明治27年に発表した小説「滝口入道」で、瀧口入道が高野山で平重盛の子維盛と再会する場面を描いている。
一方、五来重は、「増補 高野聖」で、宗教民俗学の立場から次のように記している。
ただわれわれは高山樗牛のように、そのセンチメンタリズムに幻惑されて聖の現実の姿を見失ってはならない。
滝口の侍 斎藤時頼も建礼門院の雑司女横笛も、もちろん実在ではない。
しかし「平家物語」が本筋からそれて、こんなフィクションをエピソードとしていれるのは、
この文学の成立にあずかった高野聖のすがたを発心物語として出したかったからであろう。
横笛について、実在資料は見出されていないが、斎藤時頼は、「尊卑分脈」時長孫(「国史大系」第2巻)に載せられており、実在したと考えられている。
南海高野線高野山駅からバスで小田原通下車すぐ。